1. 作物の収量品質を高める健全な土壌
健全な土壌の必要性
「土」という漢字は作土層(二)に種が落ち芽が出てきたのを表しており、「生」という漢字はそこに枝が出て葉が出たのを表しているそうです。聖書にあるアダムはヘブライ語でアダマ、「土」を意味しておりイブはイバで「命」を意味するそうです。命を育むもとは土にあるという事です。
メソポタミア文明やギリシャ文明、シルクロードの楼蘭など文明が滅んでいますが、これも各種の土壌劣化による食料不足も大きな要因となっているようです。「Culture」は文化という意味の他に耕作、栽培という意味があります。「Agriculture」の「Agri」は畑を意味しラテン語で「Agricultura」「土地の耕作」を意味していて、土を耕し作物を栽培することが農業で文明、文化の始まりです。土が死ぬということは文明がなくなり文化も失われることになります。人類が存続して文化を維持していくためには健全な土壌を確保維持していく必要があります。
今、地球沸騰時代と言われ環境問題が農産物生産に大きな影響を及ぼしています。全世界の多くの地域で水や風による侵食や塩類集積、土壌物理性悪化で作物生産性が落ち、World Bankのデータによると2010年と2050年で比較して作物収量の変化を予測していますが、2050年には寒冷地以外の多くの地域で収量は減少し、反対に寒冷地で収量が増加するとされています。現在、全世界の人口は80億人でそのうちの1割の8億人が飢餓人口と言われており2050年には全世界の人口は90億人と予測されていますが、この人口を賄える食料の確保が可能なのか、日本国内でも農地や農業従事者が減少していますが農家が利益を得てゆとりある生活ができる環境であれば農業従者や農地の減少は無くなり食料自給率も高まると思いますのでその環境整備が必要です。
有機物、微生物の必要性
作物の収量・品質を高めるためには、作物そのものが健全である事が必要で、根は養分吸収が可能な状態で根張りを良くする必要があります。根は人間で言うと胃や腸の役割をしていて健全でないと消化吸収ができないのと同様です。葉で光エネルギーを受けて光合成をおこない体を作っていくので害虫や病原菌で葉がダメージを受けないように対策を取る必要があります。
土壌では化学性、物理性、生物性の健全化が必要で、化学性では作物に有害な物質が無く、各作物生育に必要な養分が適正濃度含まれ、塩基飽和度、塩基バランスが適正で腐植などによる保肥力、地力、緩衝力が高い土壌が必要でです。
物理性では作物根の伸長を妨げない貫入式土壌硬度計で1.5MPa(山中式硬度計で19-22mm)以下の柔らかい土壌が必要で、作土層は土壌の種類や作物で異なりますが、一般的には25cm以上と深く、三相分布も土壌の種類や作物で異なりますが一般的には固相:液相:気相の割合が5:3:2または5:2:3とされており、透水性、保水性、通気性が良くなると根の張りも良くなります。
生物性では、有機物を分解し養分供給をスムーズにおこなうための多様で豊富な微生物相が必要で、各種作物の病原菌や寄生性センチュウが生存しないのが基本で、もし仮に生存してもそれらの病原菌を抑制する拮抗菌や寄生性センチュウの卵寄生菌や捕捉菌が増殖する環境づくりが必要です。 これらの土壌化学性、物理性、生物性を総合的に良くする事が土づくりで、そのためには我々が受ける健康診断と同様に土壌診断をおこない不良な項目、養分の過不足を判断して土壌改良、適正施肥の対策が必要です。そのためには必ず良質堆肥などの有機物や有機質肥料と微生物の働きが重要です。
WRITER PROFILE
<執筆者:野口 勝憲>
1950年:長崎県生まれ
鹿児島大学農学部農芸化学科卒業
京都大学農学部植物栄養学 小林達治 研究室
表彰:日本土壌肥料学会 第8回技術賞受賞
現在:(一財)日本土壌協会専門委員、土壌医の会全国協議会会長、茨城土壌医の会会長、全国土壌改良資材協議会特別顧問など
専門分野:土壌肥料、有機質肥料、土壌微生物、土壌診断と対策
資格:農学博士
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